問題11 原文
問題 11 次の資料は、J市の学習支援教室で、ある児童の指導方針について、ボランティ
アのX先生と、専門の日本語教員であるY先生が交わした会話の一部である。資料
を読み、後の問い(問1〜5)に答えよ。
< 資料 >
X: Y先生、以前ご相談申し上げたベトナムのリンさんの件ですが、
a 最近休み時間にお友達と楽しそうにしゃべっているんです。以前はとても
心配していましたが、あれだけお友達と話せていたら、そのうち日本語の問
題は解消されそうだと思って。
Y: あ…、そうなんですか?
X: ただ、家では、4歳年上のお姉さんに日本語を教えてもらっているらしく、
日本語だけで考え、日本語だけでコミュニケ―ションをとるという環境がま
だまだ徹底されていないみたいで…。
Y: うーん、どうでしょう…。b その状況は、必ずしも否定的に捉えられるべきも
のではないと思いますが…。どんな言語も考えるために役立ちますから。
X: でも、そのわりには、彼女、ベトナム語の補習授業に行きたがらないって聞
きました。
c 継承語学習は大切だと、ご家族にはお伝えしているんですが…。
Y: それは少し待ってあげたほうがいいかもしれませんよ。彼女が今、母語から
距離を置こうとしているのには、彼女なりの d 葛藤があるはずです。外側か
ら強制するのではなく、まずは e 対話型アセスメントなどを通じて、彼女が
今、自分と周囲をどう捉えているのかを丁寧に理解することから始めるべき
ではないでしょうか。
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問1 <資料>の下線部 a に記されたX先生の考え方の特徴として最も適当なものを、次
の1~4の中から一つ選べ。
1 ことばの発達ステージは、年齢による一般的な認知能力に影響を受けるが、その点
を踏まえた議論をしていない。
2 子どもの言語発達は、ポートフォリオ等に基づいて縦断的になされるべきであるが、
その視点が欠けている。
3 U字型発達に見られるように、学習者の習得プロセスは、必ずしも直線的なプロセ
スを辿るわけではないが、その可能性を想定していない。
4 会話の流暢さや弁別的言語能力に問題がなくても、教科学習言語能力については支
援が必要とされることが多いが、その点が考慮されていない。
問2 <資料>の下線部 b「その状況は、必ずしも否定的に捉えられるべきものではない」
について、この見解と関連がある考え方として最も適当なものを、次の1~4の中か
ら一つ選べ。
1 アコモデーション理論
2 トランスランゲージング教育論
3 文化変容モデル
4 分離基底言語能力モデル
問3 <資料>の下線部 c「継承語学習は大切だ」とあるが、大切だと言い得る理由とし
て不適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 学習者のアイデンティティの確立に影響を及ぼし得るから。
2 学習者とその家族との円滑なコミュニケーションを促進し得るから。
3 臨界期を迎える前に親の母語に触れることで将来の流暢さの基盤になり得るから。
4 教科学習やその他の活動に必要な思考力の基礎を形成し得るから。
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問4 <資料>の下線部 d「葛藤」の例として不適当なものを、次の1~4の中から一つ
選べ。
1 継承語を学びたい気持ちがあるものの、日本語学習のプレッシャーが大きいため、
継承語の学習にあまり時間をかけたくない状態
2 継承語を学びたい気持ちがあるが、継承語の学習支援が学校のカリキュラム外で実
施されているため、孤立感を感じている状態
3 継承語は家族との会話で使用するだけなので、読み書き等、これ以上学ぶ必要がな
いと考え、学習意欲を失った状態
4 家族と継承語を用いたい気持ちは強いが、日本の学校社会に溶け込むためには、継
承語の学習が役に立たないので、気持ちが揺れている状態
問5 <資料>の下線部 e にあるように、「対話型アセスメント」には紙面によるテスト
等にはない利点があると考えられている。その利点を説明するものとして不適当なも
のを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 「聞く・話す」能力に絞って、それらを重点的に評価することができる。
2 状況に応じて、対象となる子どもの母語を活用した評価が可能である。
3 アセスメント後の指導において、重点をおくべき技能や学習活動を特定しやすい。
4 子どもが「一人でできること」だけでなく、「支援を得てできること」をも測るこ
とができる。
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解答入力
上の原文にある各問の選択肢を確認し、下で選択肢番号を選んでください。
解答・解説(原資料)
以下は解答解説PDFから該当問題の説明を収録したものです。採点後に確認してください。
問題 11(児童の言語発達と DLA)
児童の言語発達や対話型アセスメントに関する出題である。年少者の言語発達の特性や、
複数言語環境にある児童生徒の教育とそこに見られる心理的葛藤、および「対話型アセス
メント(DLA)」の理念について理解しておく必要がある。
問1 正答:選択肢4
下線部 a では、リンさんが「休み時間にお友達と楽しそうにしゃべっている」ことを根
拠に、日本語習得への期待が語られている。しかし、カミンズが提唱したように、「日常
会話能力(BICS)」(会話の流暢さなど)と「教科学習言語能力(CALP)」は同様の発達
過程を経るとは限らない。一般に、BICS は比較的短期間で身につくが、CALP の習得には
より長期間の継続的な支援が必要とされる。また、単なる日常会話能力とは異なり、CALP
は学校教育や認知的活動を通じて育成される能力であり、母語話者か否かにかかわらず、
個人差が生じやすい。そのため、この点を考慮したサポートが望まれる。
問2 正答:選択肢2
下線部 b「日本語だけで考える環境が徹底されておらず、ベトナム語(母語)も使って
いる状態」を否定的に捉える考え方は、日本語の習得とベトナム語の習得が別個に進むこ
とを想定している。すなわち、複数の言語が脳内に別々に独立して収まっているという分
離基底言語能力モデル(いわゆる風船説)に寄せた見方だと言える。それに対し、下線部
b を否定的に捉えない Y 先生の考え方は、学習者が持つすべての言語的リソースを一体の
ものとして捉える「トランスランゲージング(トランスランゲージング教育論)」に寄せ
た見方であり、これは共有基底言語能力の考え方に依拠している。
問3 正答:選択肢3
継承語とは、主に親族・家庭内で使われる言語とは異なる言語環境に身を置く児童生徒
にとっての、親族・家庭内言語を指す。したがって、継承語とはそもそも、当該の児童生
徒が臨界期を迎える前に接している言語であることが多い。いずれにせよ、継承語学習の
教育的・心理的な意義を説明するものとして、継承語に触れる時期は主たる理由とは言え
ない。なお、選択肢1、2、4は継承語学習の重要性を説明するものである。
問4 正答:選択肢3
葛藤とは、二つの気持ちの間で板挟みになって悩むことを意味する。選択肢3は「これ
以上学ぶ必要がないと考え、学習意欲を失った状態」とあり、二つの感情がぶつかり合っ
た状況ではない。
問5 正答:選択肢1
対話型アセスメント(DLA)は、対話を通じたやりとりの中で、単なる日常会話力だけで
なく「教科学習言語能力」まで含めた「包括的なことばの発達ステージ」を見るものであ
る。 したがって、<聞く・話す> <読む> <書く> の技能すべてが評価対象となる。
なお、選択肢2、3、4はいずれも「対話型アセスメント」の利点を説明するものである。
原文はPDFテキスト抽出結果をもとに収録しています。図表・段組み・下線等の視覚的な再現は完全ではない場合があります。