問題12 原文
問題 12 S先生は、日本語学校の中級クラスにおいて聴解および読解の授業を担当してい
る。ある時、授業の感想を学習者に尋ねたところ、<資料A>にある4名の発言に代
表されるような感想が多かった。そのため、次回の授業は<資料B>のような授業を
行うつもりであるが、<資料A>の学習者の声に配慮し、指導のやり方を工夫しよう
と思っている。これらの資料を読んだ上で、後の問い(問1〜5)に答えよ。
<資料A>
学習者Lさん
私は漢字圏出身なので、読解は自信があります。でも、いつも辞書を引くのに
時間がかかるので、読むスピードは遅いです。一方、聴解はちょっと苦手です。
聴解の場合、漢字がわかりませんから、単語が理解できません。それで、何を言
っているのか、わからなくなります。
学習者Mさん
私は読解も聴解も苦手です。でも、結局のところ、読解でも聴解でも、単語力
が重要だと思います。私は単語力がないので、知らない言葉が出てくると止ま
ってしまい、理解できません。そこで、読解力や聴解力をつけるために、最近で
は単語クイズのアプリを使って練習しています。
学習者Nさん
日本のニュースの聴解をすると、言葉がわかっても、そのニュースのポイン
トがあまりわかりません。後でスクリプトを読みながら先生に説明してもらっ
ても、日本語としては理解できても、その出来事の何が重要なのかがよくわか
りません。ですから、どうやって勉強すればいいのかわかりません。不安です。
学習者Oさん
私は、読解より聴解のほうが点数が高いです。でも、実は、タイトルや写真、
自分の経験から「たぶんこんな話だ」と思って聞いて、それでたまたま当たるこ
とも多いんです。ですから、本当の意味では、聞き取りができていないのかもし
れません。助詞や文の最後の部分をちゃんと聞いていないことが多いです。
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<資料B>
次回の授業の概要
タスク 聴解「ニュースを聞く」
聴解素材 「円安とインフレ」
キーワード: 「インフレ」「外国為替市場」
「円安」「エネルギー」
「原材料」「家計」
指導方針 内容理解のためのタスク・リスニングをメイン・タスクとする。同時に、
①ニュース特有の流れ(「現状の報告」→「背景・原因」→「今後の展
望・対策」)を意識させる。
②「~を招く」
「~に伴い」
「~を余儀なくされる」などの硬い表現に注
意を向けさせ、覚えてもらう。
問1 <資料A>の学習者のうち、情報の処理プロセスにおいてボトムアップ処理に依存
する傾向がある者の組み合わせとして最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選
べ。
1 学習者Lさん、および、学習者Mさん
2 学習者Mさん、および、学習者Nさん
3 学習者Nさん、および、学習者Oさん
4 学習者Oさん、および、学習者Lさん
問2 <資料B>で示された聴解タスクの前作業として行うのに最も適当なものを、次の
1~4の中から一つ選べ。
1 ドル円、ユーロ円など、さまざまな為替レートの正確な聞き取りのために、数字の
聞き取り練習をしてもらう。
2 最近の日本のインフレ状況についてインターネットで調べ、わかったことをプレゼ
ンテーションしてもらう。
3 まず、最近、為替レートをチェックしたかどうかを学習者に問い、続いて、近年の
動向についてわかる範囲で話してもらう。
4 キーワード6語を導入し、それらを何度か書いて覚えてもらった上で、練習問題を
通じて定着度を測る。
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問3 <資料B>で示された聴解タスクに取り組むにあたり、Nさんに対し個別のアドバ
イスを与えることにした。Nさんへのアドバイスとして最も適当なものを、次の1~
4の中から一つ選べ。
1 為替レートと物価の関係について、Nさんの母語で書かれた平易な解説文を紹介し
読んでもらい、理解度を問う。
2 <資料B>の授業で用いる聴解素材の音声データを一部渡し、予めディクテーショ
ンしておいてもらう。
3 予めスクリプトを手渡し、わからない単語を調べておくように告げる。
4 以前勉強した聴解素材を用いて、毎日シャドーイングに挑戦してみるように言う。
問4 <資料A>の学習者Oさんに対し個別のアドバイスを与えることにした。Oさんへ
のアドバイスとして最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 復習として、授業で扱った聴解素材を使ってシャドーイングするように助言する。
2 助詞や文末表現に関する文法ドリルに取り組むように告げる。
3 同じ話題を扱った聴解素材を探し、内容が理解できたか否か自己評価してもらう。
4 聴解タスクの前に、タイトルや写真、自分の経験から話の内容を推測しないように
指導する。
問5 <資料B>の下線部「『~を招く』『~に伴い』『~を余儀なくされる』などの硬
い表現に注意を向けさせ、覚えてもらう」のための活動は、授業のどのタイミングで
どのように組み込むべきか。最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 事前に宿題として記憶しておいてもらう。
2 タスク・リスニングとして、当該の表現を書きとらせる。
3 前作業として、当該の表現を問う練習問題を与える。
4 後作業として、当該の表現がどの部分で使われているのかを聞き取り、書きとらせる。
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解答入力
上の原文にある各問の選択肢を確認し、下で選択肢番号を選んでください。
解答・解説(原資料)
以下は解答解説PDFから該当問題の説明を収録したものです。採点後に確認してください。
問題 12(聴解・読解の処理プロセス)
中級クラスにおける聴解・読解の指導方法や、情報処理プロセス(ボトムアップ処理と
トップダウン処理)に関する出題である。学習者個々の習得状況や認知傾向に応じた個別
アドバイスや授業の在り方について理解しておく必要がある。
問1 正答:選択肢1
ボトムアップ処理とは、音声、文字、単語等の比較的小さな項目を個別に理解し、それ
らを組み上げて全体的な意味を把握していく情報処理プロセスのことである。
学習者Lさんは「漢字がわからないから単語が理解できず、何を言っているのか分からな
くなる」と述べており、個々の音や文字のレベルに固執している。学習者Mさんは「単語
力がないので知らない言葉が出てくると止まってしまう」と述べており、語彙の処理でつ
まずいて全体把握に至っていない。したがって、ともにボトムアップ処理への依存度が高
いと考えられる。
なお、学習者Nさんは、語彙や文法の問題というより、ニュースの背景知識や出来事の
構造理解に課題を感じていると考えられる。他方、学習者Oさんは、背景知識やスキーマ
(文脈・経験)を活用して内容を推測するトップダウン処理に依存しており、音声の細部
への注意が不足している。
問2 正答:選択肢3
聴解や読解の前作業(プレタスク)の目的は、学習者の背景知識(スキーマ)を活性化
させ、本作業(メインタスク)での理解をスムーズにすることである。そのため、前作業
で実施する活動が本作業よりも複雑で、学習者に過度な負荷を与えるものであるのは望ま
しくない。
選択肢3の「為替レートについて問い、近年の動向について知っている範囲で話しても
らう」活動は、テーマである「円安とインフレ」に関する既存の知識や経験を引き出す取
り組みとして適している。
問3 正答:選択肢1
学習者Nさんは、「ニュースを聞いても理解できず、スクリプトを辞書で調べながら読
んでも意味がわからない」と述べている。このことから、Nさんは言語そのものに難しさ
を感じているというより、ニュースを理解するための背景知識や社会的スキーマが十分に
形成されていないために、背景概念や内容の把握に課題があると考えられる。そこで、選
択肢1のように、母語で書かれた平易な解説文を通じてテーマ全体の概念や基本構造を先
に理解させることは、概念と言語形式との結びつきを得るための大きな助けとなる。
問4 正答:選択肢1
学習者Oさんは背景知識や推測(トップダウン処理)に頼る一方で、「助詞や文の最後
の部分をちゃんと聞いていない」という細部の正確な聞き取り(ボトムアップ処理)の弱
さを自覚している。一般に、この弱点を持つ学習者は少なくないと言われている。という
のも、聴解において、学習者は語彙的な意味を持つ自立語等に意識を奪われがちで、機能
語の聞き取りはおろそかになりがちだからである。
シャドーイングは、聞こえてくる音声を正確に真似して発声するトレーニングであり、
助詞や文末表現などの音の細部の聞き取りをおろそかにしては遂行不可能である。そのた
め、音韻符号化や音声知覚を自動化するのに有効である。
問5 正答:選択肢4
「〜を招く」「〜に伴い」などの特定の言語形式や表現に注意を向けさせる指導は、フ
ォーカス・オン・フォームと呼ばれる。これは、メインタスクで全体の内容(意味)を把
握した後の「後作業(ポストタスク)」で行うのが一般的である。選択肢4の活動は、文
脈の中でそれらの表現がどのように使用されていたかを改めて意識させ、意味と形式を結
びつけて定着を図る取り組みとして最も適切である。
原文はPDFテキスト抽出結果をもとに収録しています。図表・段組み・下線等の視覚的な再現は完全ではない場合があります。