問題16 原文
問題16 T先生は、自分が担任しているクラスに所属するFさんから、対面での相談を受
けた。下の<資料A>は、その相談の内容を要約したものである。この後、T先生は
U先生に当該学習者の相談内容について助言を求めた。<資料B>はそのやりとりの
一部である。これらを読み、後の問い(問1〜5)に答えよ。
< 資料A >
Fさんの相談内容
最近、日本語の勉強が苦痛です。もともと日本文学の世界観が好きで作品を味わ
いたいから、日本語を独学し始めました。当時は、わからない表現があっても、物
語の空気に触れることで心が動き、それが喜びでした。 a 文学作品の中だったら、
単語もどんどん覚えられたんです。でも、今は大学進学のために『試験の点数を取
らなければならない』というプレッシャーに押しつぶされそうです。私は論理や正
確さよりも、感性に訴える文章を味わうことの方が向いています。正直、私にとっ
ては学校の文法問題や論理的文章を書くトレーニングなんて、必要がないと思っ
ています。私は教科書や学校のプリントの文章が好きになれません。もっと、生の
日本語に触れていたいんです…。それで、最近は、机に向かっても宿題を眺めてい
るだけで時間が過ぎてしまいます。以前の情熱が消え、何のために日本語を勉強し
ているのか、わからなくなりました。
< 資料B >
T: Fさんがそんなふうに悩んでいたとは、気づいていませんでした。
U: そうですね。この相談内容からすると、少なくとも動機づけの問題がありそ
うですね。自らの意志で始めた独学から、学校の課題、進学のプレッシャー
へと、彼女にとっては留学を機に日本語学習環境が激変したわけですし…。
T: 私が小テストだの、宿題だの、課題を多くしすぎていたんでしょうか…。
U: 他の学生も同じように感じているとしたら、課題の量を調整しなければな
らないかもしれませんね。でも、Fさんの場合、ちょっとした b ビリーフ
が問題を厄介にしているのかもしれないので…。
T: 確かに…、他の学生からは、特にそのようなことを言われたことがないで
すね…。
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U: 最近は授業でも c オーセンティック・マテリアルを使うことが多いから、
F さんが言っていることがすべて正しいとは言えないし…。それから、F さ
んがちゃんと d メタ認知能力を働かせているかどうかも怪しいと思う。
とは言っても、いきなりそれを F さんに告げても逆効果だろうから、悩ま
しいですね。まずは、e 動機づけの問題から取り組んでみてはどうでしょ
うか…。
問1 <資料A>の下線部 a「文学作品の中だったら、単語もどんどん覚えられた」に示
されている記憶の方略として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 維持リハーサル
2 精緻化
3 体制化
4 身体的反応
問2 <資料B>の下線部 b「ビリーフ」について、ここで想定されている F さんの「ビ
リーフ」の内容として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 文学作品の読解に、論理や正確さは必要ないという考え
2 日本文学の世界観が好きという揺らぎのない心情
3 学校の課題が多すぎるという思い
4 試験でいい点をとらなければならないというプレッシャー
問3 <資料B>の下線部 c「オーセンティック・マテリアル」について、その使用にあ
たって留意すべき点として不適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 対象となる学習者の日本語レベルと素材の難易度とが合っていないことが多いので、
そのギャップをいかに補うかという点
2 素材の分量が授業で扱うことのできる分量と見合っていないことが多いので、素材
の扱い方を工夫しなければならない点
3 言葉だけでなく、その背後にある日本の社会習慣や時代の空気感が伝わってしまう
ため、特異性を希薄化しなければならない点
4 「どこに注目させるか」というタスク設計や、注釈作り、著作権の確認など、教師
側の負担が大きくなりがちである点
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問4 <資料B>の下線部 d「メタ認知能力」について、この能力によって学習者にもた
らされるメリットとしてあてはまらないものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 よりよい学習計画をたてることができる。
2 自分の長所と短所をできるだけ客観的に把握することができる。
3 学習がうまく行かない場合、なぜうまく行かないのかを分析することができる。
4 自分を取り巻く学習環境を把握することができる。
問5 <資料 B>の下線部 e「動機づけの問題から取り組んでみてはどうでしょう…」とい
う発言から示唆される取り組みとして最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 授業や教科書で学ぶ日本語でも、日本文学の読解に役立つ項目が含まれていること
を告げる。
2 学習者が日本語の学習のやり方を自ら決定していると感じられるように、課題の出
し方を折々工夫する。
3 自分は感性の人だから、文法や論理は不要だと自分自身を規定してしまわず、幅広
く多様なことに関心を持つといいと話してみる。
4 学校の課題がこなせないようでは、日本文学について深く理解するといった高度な
認知作業は無理だと告げる。
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解答入力
上の原文にある各問の選択肢を確認し、下で選択肢番号を選んでください。
解答・解説(原資料)
以下は解答解説PDFから該当問題の説明を収録したものです。採点後に確認してください。
問題 16(記憶の方略と動機づけ)
動機づけ、ビリーフ等、学習者の心理的側面、そして、記憶ストラテジーや認知プロセ
スにスポットを当てた出題である。現実の学習者を想定したうえで、理論的な知見に基づ
いた対応ができるかが問われている。
問1 正答:選択肢2
記憶ストラテジーに関する問題。精緻化とは、覚えるべき項目を頭の中の意味のネット
ワーク内に組み込むことである。文学作品の文脈や世界観と一緒に語彙を覚えるのは、ま
さに精緻化の代表例と言える。
問2 正答:選択肢1
ビリーフとは、言語学習に対する固定観念や信念のこと。学習者Fは「論理や正確さよ
りも感性を味わう方が向いている」と思い込んでいて、精読や論理的読解を遠ざけている。
選択肢2は、Fさんの嗜好を述べているだけであり、学習に影響する固定観念の説明とし
ては不十分である。選択肢3および選択肢4は外部のプレッシャーや環境の話であり、学
習者本人の内部にある「ビリーフ」ではない。
問3 正答:選択肢3
生教材(オーセンティック・マテリアル)を使う最大の目的は、言葉の現実の用法や文
化的背景に触れること。選択肢3中にある「背後にある日本の社会習慣や時代の空気感が
伝わ」ることは、むしろ、オーセンティック・マテリアルの使用のメリットを述べたもの
である。
オーセンティック・マテリアルには明確な利点が多いが、素材の長さ、学習ポイントの
絞り込み、素材に用いられている日本語の難易度調整等が難しく、著作権の問題もあり、
教師側の負担が大きくなりがちである。
問4 正答:選択肢4
「メタ認知能力」とは、自分自身の認知プロセスを客観的に観察・コントロールする能
力のこと。選択肢4は外界を捉えることであり「認知能力」による。
問5 正答:選択肢2
選択肢2の記述は「自己決定理論」に関するものである。学習者は、自分の学習を自分
でコントロールしているという意識、すなわち「自律的に学習できている」という実感が
持てると内発的動機づけを高めやすくなると言われる。F さんの発言より、F さんは自ら選
んだ文学作品を読むことには意欲的であったが、試験のために与えられた課題をこなすこ
とには興味が持てないようであるため、選択肢2の取り組みは、「動機づけの問題からの
取り組み」だと考えられる。
選択肢1および選択肢3は、F さんの考え方を真向から是正しようとする働きかけであ
り、選択肢4は F さんへの批判であるため、動機づけの問題としての取組みとは言えない。
原文はPDFテキスト抽出結果をもとに収録しています。図表・段組み・下線等の視覚的な再現は完全ではない場合があります。