問題6 原文
問題6 次の文章を読み、下の問い(問 1~5)に答えよ。
日本語には、曖昧さが付きまとうと言われることがある。それは、日本語が a 高コンテ
クスト文化であることと無縁ではないだろう。このような日本語の特質は、日本語の文法
や語用論的な特徴を考えるうえで欠かせない。
まず、文法的な特徴を見るために b 「知らない人」という句を考えてみよう。これは名
詞修飾節と名詞の組み合わせであると分析できるが、その統語的な構造はこの句だけで判
断することはできない。なぜなら、例えば、母親が子供に向かって「知らない人について
行っちゃだめだよ」と言った場合の「知らない人」と、ある社員が同僚に対して「来週の
ミーティング会場ですが、知らない人はこちらの掲示板で確認しておいてください」と言
った場合の「知らない人」とでは構造が異なるからだ。日本語では、基本文型の成分であ
っても文脈から容易に推測される場合には省略されることが多いため、節内の統語構造以
上に文脈情報に依拠した解釈が重要性を持ち得る。
日本語の語用論的な特徴としては、婉曲的な表現が多いことが挙げられる。婉曲的な言
い回しは至る所で使われ得るが、c 隣接ペアの2つ目の発話が非優先応答(dispreferred
response)である際に、とりわけ顕著に現れる。このような発話は、しばしばグライスの
協調の原理における d 関係の公理から逸脱した発話になるが、その違反によって発話の
意図が伝えられる場合も多い。このような語用論的な側面の指導は、文を単位とした練習
方法では限界があり、e 談話レベルの口頭練習を取り入れる必要がある。
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問1 文章中の下線部 a「高コンテクスト文化」に関する説明として最も適当なものを、
次の1~4の中から一つ選べ。
1 ドイツ語は、日本語と同様、高コンテクスト文化として知られている。
2 会話の当事者が持つ既有知識とは無関係に、丁寧な情報共有が求められる。
3 聞き手は、語られた内容に忠実に解釈することが期待される。
4 発話の間、および、沈黙が許容されやすい。
問2 文章中の下線部 b「知らない人」をめぐって、この段落で示された2通りの解釈と
同様の解釈が成り立つものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 「困った人は相談しに来てください」の「困った人」と「まだ、試験勉強を始めて
いないなんて、困った人だね」の「困った人」
2 「A 先生って、授業が退屈で、寝ちゃう先生だよね」の「寝ちゃう先生」と「A 先生
ってお酒に弱いから、寝ちゃう先生だよね」の「寝ちゃう先生」
3 「例の映画のことだけど、見た人はどのぐらいいるのかな」の「見た人」と「昨日
オフィスに行った時に見た人は、いったい誰だったんだろう」の「見た人」
4 「このかばん? 買った店、教えようか?」の「買った店」と「結局 3,000 万円だっ
たんだけどさ、買った店、案内しようか?」の「買った店」
問3 文章中の下線部 c「隣接ペアの2つ目の発話が非優先応答(dispreferred response)」
となる例として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 A:このパソコンを使わせてもらってもいいかしら。
B:うーん、どうだろう…。
2 A:何と言ったらいいか、このプランだと、お客様が納得してくれるかどうか怪しい
と思うんだ…。
B:今から練り直します。
3 A:お手伝いしましょうか。
B:悪いね。
4 A:ねえ、一緒に帰らない?
B:うん。ちょっと待っててね。
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問4 文章中の下線部 d「関係の公理」について、この公理に違反することで含意を伝え
ていると言える例として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
(教師の「宿題をしてきましたか」という問いに対する学生の答え)
1 昨日は頭が痛かったんです。
2 したんですけど、家に忘れてしまいました。
3 あのう、半分だけ…。
4 すみません、してきませんでした。
問5 文章中の下線部 e「談話レベルの口頭練習」を実施するにあたって配慮すべき点と
して最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。
1 真正性を損なわないために、ロールプレイにおいては架空の人物設定を行わない。
2 「断る」「辞退する」等、言葉の機能を意識した課題を用意する。
3 日本語で典型的に用いられる垣根表現を分かりやすくリスト化して提示する。
4 日本文化への同化を強要しないように、日本語の典型的なぼかし表現は積極的に指
導しない。
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解答入力
上の原文にある各問の選択肢を確認し、下で選択肢番号を選んでください。
解答・解説(原資料)
以下は解答解説PDFから該当問題の説明を収録したものです。採点後に確認してください。
問題6
問1 正答:選択肢4
「高コンテクスト文化(高文脈文化)」は、非言語的な手がかり、暗黙の了解、文脈等、
言葉以外の情報に強く依存するコミュニケーション・スタイルを持つ文化のこと。日本社
会は、典型的な高コンテクスト文化を有すると言われる。それに対し、「低コンテクスト
文化(低文脈文化)」は言葉で表された内容を主たる情報と捉えるコミュニケーション・
スタイルを持つ文化のこと。ドイツ語社会は典型的な低コンテクスト文化を有すると言わ
れる。
問2 正答:選択肢3
「知らない人について行っちゃだめだよ」における「知らない人」は、「あなたは(そ
の)人を知らない」という格関係を持つ。したがって、被修飾語である「人」は名詞修飾
節中ではヲ格に当たる語である。「知らない人はこちらの掲示板で確認してください」に
おける「知らない人」は、「(その)人が(ある情報を)知らない」という格関係を持つ。
したがって、被修飾語である「人」は名詞修飾節中ではガ格に当たる語である。それと同
様の格関係を持つのは、「見た人」のペアである。
問3 正答:選択肢1
隣接ペアにおいて、相手の期待に沿う返答は「優先応答」、相手の期待に沿わない返答
は「非優先応答」と言われる。理屈の上ではどちらもあり得る返答ではあるが、実際には、
後者の返答が直接的な表現で端的に述べられることは稀で、曖昧な言い方や間接的な言い
方が採用されることが多い。
日本語の語用論的規範に慣れ親しんでいる者にとっては、返答が曖昧であれば、そのこ
と自体が非優先応答を示唆していると解釈する。他方、そうでない者にとって、このよう
な曖昧さはどちらつかずの回答だと解釈され、誤解を生む場合さえある。選択肢1の例で
は、Aが許可を求めているのに対し、Bの返答ははっきりしない。この曖昧さからBが非
優先応答をしようとしていることが推測される。
問4 正答:選択肢1
教師が宿題の話をしているのに対し、選択肢1は自らの体調の話をしている。関係の公
理から逸脱した返答をすることで、不本意にも宿題をやってこなかったことを伝えようと
している。
問5 正答:選択肢2
関係の公理の違反等を含む「談話レベル」の活動としては、発話者の発話意図が重要で
ある。したがって、言語の機能に注目させることが指導上必要となる。
原文はPDFテキスト抽出結果をもとに収録しています。図表・段組み・下線等の視覚的な再現は完全ではない場合があります。